「ナフサショック」が建設現場に直撃-資材不足の今、建設会社が知っておくべきこと

2026年2月に中東情勢の緊迫化によってホルムズ海峡が実質的に封鎖され、日本のナフサ供給が急激に滞りました。
26年6月現在、戦争終結に向けて動いてはいますが、建設業界を揺るがす「ナフサショック」が引き続き深刻化しています。資材の調達難や価格高騰が現場に影響を与える中、弊社でも状況を注視し、お客様への丁寧な情報共有に努めています。

弊社ケイ・マックスには主要事業の一つとして荷揚げ(資材搬入)があります。
ナフサ不足→建材不足、建材不足→工事ができない、工事ができない→荷揚げや手元作業不用という構造で弊社にも影響があります。

今回は、その「ナフサ不足による影響」を弊社の営業部から聞きました。
また、輸入が止まった背景、原油・ナフサとはなにか、なぜ中東に依存するのかなど、イラン-アメリカ戦争が実際の我々の生活に影響するまでをまとめました。

「ナフサ」とは?

そもそもナフサとは、原油を精製する過程で得られる石油化学製品の基礎原料です。プラスチック(合成樹脂)・合成ゴム・塗料・接着剤・合成繊維など、私たちの生活を支える無数の製品の「出発点」となる素材です。

原油から建築資材(樹脂製品・接着剤など)になるまで

第1段階:分別蒸留(350℃)
原油を熱して、沸点の違いによって異なる製品に分離します。ガソリン(30%)、軽油(25%)、重油(17%)、ナフサ(10%)などが得られます。

第2段階:ナフサの特性
ナフサは常温でも揮発性が非常に高く、容易に蒸発するため「粗製ガソリン」と呼ばれます。このため、石油化学の原料として価値があります。

第3段階:触媒分解(850℃)
ナフサを超高温で加熱すると、液体から気体へ変わり、大きな分子が小さな分子に分解されます。これをクラッキング(cracking:割る)といい、ナフサに含まれる炭化水素分子(16C:16個の炭素分子)がエチレン(C2)+ プロピレン(C3)+ その他の小さい分子になります。

第4段階:ガス蒸留
クラッキングで生じたガスを蒸留することで、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品を取り出します。これらが石油化学産業の原料になります。

第5段階:重合反応
エチレンを重合するとポリエチレン(PE)、プロピレンを重合するとポリプロピレン(PP)になります。「ポリ」は「多くの」という意味で、小さな分子をたくさんつなぎ合わせて大きなプラスチック分子を作る化学反応です。

第6段階:製品加工
こうして作られた原料を、運搬や加工がしやすいように3~5mm程度の粒状にしたものがペレットです。このペレットが、現場で見かける塩ビタイルや、プラスチックの水回り配管、住宅設備の樹脂(FRP:繊維強化プラスチック)、PPバンド、養生シート、シンナー、接着剤といった、建材等へと加工されます。

樹脂とプラスチック

少し余談ですが、そもそも「樹脂」と「プラスチック」ってどう違うのか疑問ですよね。その辺をまとめたのが以下の表です。樹脂は大きく2つに分類され、天然樹脂と合成樹脂の2つがあり、石油由来の合成樹脂をプラスチックと呼びます。天然樹脂の動物性樹脂は工芸品になったり、植物性のものはバイオリンやチェロの弓に塗るものに使われます。

現場で使われているのは汎用プラスチック(汎用樹脂)で、安価で加工がしやすく、強度や透明度、紫外線分解性など、様々な用途によって使い分けられています。

中東への石油依存する理由

石油自体は、中東以外にもロシア、アメリカ、カナダ、ブラジルでも採れます。その中でも世界的に中東に依存する理由は「安く・大量に・安定して取れる石油がたくさんあり、海運に適している」ためです。
ではなぜ、中東に石油が豊富なのかというと、数億年前の中東は浅い海でその海中にプランクトン等海洋生物が大量におり、地形的にも石油の漏出がない岩盤などに恵まれていたためです。また、中東では比較的浅いところから採掘が可能で、海に面しており運送コストが低いことも、中東諸国に頼っている理由の一つです。

ただし現在、この安価な石油資源が採れることと、実際に入手できるかは別問題となりました。

唯一の航路ホルムズ海峡

イラン周辺国と重要航路

画像のとおり、中東諸国から出発するタンカー船の出口はホルムズ海峡の1つしかありません。

そのホルムズ海峡の入り口を握っているのはイランです。
このイランはアメリカと戦争をしているわけですが、イランは「もし自国(イラン)が攻撃されたら、石油輸送にも影響が出るぞ」という外交をしています。

実際にホルムズ海峡が物理的に封鎖されているわけではありませんが、戦争によりイラン側では以下の措置を取っています。

  • 機雷の設置
  • 小型高速艇で接近など軍事的な威圧
  • 船の検査実施
機雷のイメージ
機雷(爆薬とセンサーを内蔵し、船舶との接触または音、水圧、振動、磁気等を感知して爆発する

船舶の保険会社が「危険だから船を出さない」と判断するなどで、ホルムズ海峡を介した物流が止まっているのが状況です。

このホルムズ海峡が通れるようになるには2ステップが必要と考えられます。
①イラン・アメリカ間の停戦合意(26年6月17日)
②国際協力での機雷の総除去

現状、政府間交渉が進み停戦の合意に署名はされたものの、6/28日現在、ホルムズ海峡周辺では攻撃の応酬が続き、双方が相手による停戦違反を互いに非難し合っている状況です。完全な復興には不透明で、その間も日本を含む海運国は代替ルートや中間在庫での対応を余儀なくされている状況です。

建設業界への具体的なナフサ不足の影響

建設業界においても、様々な資材が出荷停止・制限・減少、値上げ、受注停止などの対応をしています。

今回の供給不足は「値段が上がる問題」を超え、「物理的にモノが手に入らない問題」へと移行しつつあります。大手であればたくさんの繋がりにより、建材等の入手ができ、大きな倉庫による在庫の確保等で持ちこたえてはいるようですが、規模の小さい企業ですと、そもそも材料がないので施工ができず、商売自体が成り立たないところもあると伺いました。

以下、伺った情報をまとめました。

建材影響
断熱材省エネ基準の適合義務化(2025年4月から「断熱等性能等級4」以上が必須)に伴い、ただでさえ需要が急増していた中、2026年4月に約40%の大幅な値上がりが実施されました。

施工現場への影響
断熱材の調達が遅れると、「壁のボードが張れず内装工事が丸ごとストップする」というドミノ倒し的な工事遅延が発生しています。
塗料・シンナー2026年3月に最大75%(一部では約80%)という驚異的な値上げが断行されました。

施工現場への影響
コストの急騰により、工事の初期段階で「着工を遅らせるか、一時中止する」という苦渋の決断を迫られるケースが出ています。外壁が終わらなければ、その後の内装工事にも進めません。
配管材料塩ビ管・樹脂系の給排水や空調などの配管において、「一日一本まで」といった制限がかかり、ホームセンターでも購入数量に制限がかかっています。

施工現場への影響
新築住宅では図面通りの排水管が使えず、設計変更を迫られ工事遅延。東京・杉並の設備改修業者は、ビル改修用の塩ビ給水管を発注しようと販売店を片っ端から当たったが入手できず、「在庫はほぼゼロ、来週からの工事ができない」「販売店5社からかき集めてようやく必要量を確保したが、数日で一気に品物がなくなった」という状況に陥りました。
水回り・住宅設備4月10日にはTOTOが受注調整を示唆(その後、6月9日に通常状態へ戻る)。LIXILも樹脂・アルミニウム素材製品などの供給条件の調整の可能性を示唆。

施工現場への影響
「設備が届かないから引き渡しができない」という最悪の危機は脱しつつありますが、依然として価格交渉や納期管理には細心の注意が必要です。
電線・ケーブル電線の被覆材が調達困難。高圧ケーブルの国内メーカー各社が軒並み受注を制限しており、弱電ケーブルも納期遅延が常態化しています。

施工現場への影響
「工場やプラント、ビルなどの電気設備が止まるかもしれない」という不安から、「壊れる前に更新しておこう」という点検・事前更新の相談需要が爆発的に増加しています。
接着剤ボンド、シール、養生テープ、合板、床、ルーフィングなど、すべてにナフサ(樹脂)が絡んでいます。

⇒施工現場への影響:
主資材(配管・電線)が揃っていても、接着剤やコーキングが1本ないだけで、その日の作業がまるごと止まるという事態が起きています。特に塩ビ管用の接着剤は塩ビ・溶剤系のため、管とセットで品薄になりやすいのが実情です。金額が小さく多品目な副資材は、施主や元請けへの値上げ交渉に乗せづらく、上昇分が施工業者の利益を直接圧迫します。


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日本政府の対策と実態

今までのナフサの調達量280万kl/月(2024年平均)で、内訳は以下の通りです。
①4割 中東輸入
②2割 中東外輸入
③4割国内生産(しかしこの原油も中東依存)

高市早苗首相の5月25日の会見によると

・中東以外の国から仕入れることで、③国内+②中東以外で供給量の8割まで回復している
・ナフサ由来の石油製品は年を越えて供給継続は可能であり、足りている
・それでも日本全体として入手できている量が通常と比べ約2割減となっていることは事実
・中間在庫(塩ビ樹脂、ポリプロピレン、ウレタン、ペレットなど)は減っていくが、1.8か月分相当、7か月以上は中間在庫を維持できる
・総生産量については足りているのであって、その後の流通過程における「買いだめ」や「売り惜しみ」などに対しては、目詰まり解消のための取組みで懸命に対処している

とのことです。

現実の数字をまとめると

  • 通常:280万kL/月
  • 現在:224万kL/月(80%)確保
  • 不足分:56万kL/月(20%)
  • 中間在庫:504万kL(1.8ヶ月分)これがあるから、今年いっぱいは何とか持つ

と言う話です。

現場では実際に石油由来の製品が供給不足になっています。心理的な要因が大きく「いずれ石油製品の原料が入手できなくなるのでないか、、、多めに持っておこう」と疑心暗鬼に陥っている中間業者やエンドユーザーが「買いだめ」や「売り惜しみ」で物が不足している状態ということです。

弊社への影響と対応について

営業部の情報によると、26年7,8月の見込みの商況においても中東情勢の影響が発生が予想されるとのことでした。現状、特に接着剤が不足しており工期の遅れが発生しているとのこと。また、採用担当者からは元防水屋さんの求職者が多数との情報もありました。主にシンナー(塗料の粘度を調整)の入手困難により仕事ができないとのことでした。

弊社では資材運搬・荷揚げ・リノベーション解体・駅や商業施設の解体工事など、幅広い建設関連作業を手がけています。こうした現場でも、内装撤去後の新規施工工程や、仕上げ材の取り付けに関わる工程において、今回の資材不足の影響が出始めています。

弊社では現在、早期発注・複数メーカーへの問い合わせ・代替資材の検討など、工期への影響を最小限に抑えるための対策を進めています。お客様にはできる限り早い段階でのご相談をお願いしております。

まとめ

建設業界以外でも、農家のビニールの清掃で日光量の確保、プラスチック容器をビンへ変更、多色刷り印刷を1色へ変更など、各社各業界も困難ながらも力強くピンチを乗り切っています。

原油や資材の価格変動は、世界の情勢と密接につながっています。今回のナフサショックを通じて、私たちは改めて「安定した日常」が多くの人々の努力によって支えられていることを感じています。

世界中で一日も早く争いが終わり、平和と安定が取り戻されることを願っています。そして私たちは、建設という仕事を通じて、これからも社会を支える一員として責任を果たしてまいります。